膵がんとは
膵臓の位置と機能1,2)
膵臓は、みぞおちの少し下、胃の後ろ側にある細長い臓器で、胃、小腸(十二指腸)、肝臓、脾臓(ひぞう)に囲まれて左右に横たわっています。長さは15〜20cm、厚みは2cmほどで薄黄色をしています。
膵臓の主な働きは、「膵液」という消化液を分泌して食べ物の消化を助ける「外分泌機能」と、インスリンなどのホルモンを分泌して血糖値を一定濃度に調整する「内分泌機能」があります。
膵臓の機能
外分泌機能
膵液(トリプシン、アミラーゼなど)を分泌してタンパク質や脂肪、炭水化物の消化を助ける
内分泌機能
血糖値を調整するホルモン(インスリン、グルカゴンなど)を血液中に分泌して、血糖値を一定濃度に調節する
1.国立がん研究センターがん情報サービス「膵臓がん」(2023年4月現在)
2.日本膵臓学会編:患者・市民・医療者をつなぐ膵がん診療ガイドライン2019の解説, p6-8, 金原出版, 2020
膵がんの発生部位と種類3,4)
膵がんの約9割は、膵液の通り道である膵管の上皮(じょうひ)細胞の中から発生します。一般的に膵がんという場合は、「膵管がん」のことをさします。
膵臓は、「膵頭部(すいとうぶ)」「膵体部(すいたいぶ)」「膵尾部(すいびぶ)」の3つの部位に分けられます。がんが発生する部位としては、十二指腸に近い「膵頭部」がもっとも多く8割近くを占めています。
膵がんができる部位と割合
膵臓にできるその他の腫瘍4,5)
膵管がん以外にも、膵臓にできる腫瘍はいろいろな種類があります。代表的な種類の「膵神経内分泌腫瘍」はインスリンなどのホルモンを作る神経内分泌細胞が腫瘍化することで生じます。また「腫瘍性膵のう胞」は、膵管の粘膜に粘液を作る腫瘍細胞ができ、その粘液が膵内にたまって袋状に見えるものをいいます。いずれも良性のものと悪性のもの、両方の性質を持っているものがあり、進展のスピードや悪性度なども異なります。膵がんと見分けがつきにくいタイプもありますので、専門医のいる施設で早めに診断を受けることが大切です。
3.日本膵臓学会編:膵癌診療ガイドライン2022年版, p41-42, 金原出版, 2022
4.もっと知ってほしいすい臓がんのこと, p4, キャンサーネットジャパン, 2023
5.国立がん研究センター東病院「膵臓の病気と治療について」(2023年4月現在)
膵がんの症状6,7)
膵がんは、早期のうちはほとんど症状がありません。膵がんが進行すると、腹痛、食欲不振、お腹が張る(腹部膨満感)、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)、体重減少、腰や背中の痛み、などの症状が見られるようになります。また、糖尿病を新たに発症したり、糖尿病が急に悪化することもあります。がんが膵頭部にできた場合は、胆管が詰まって黄疸などの症状が出やすくなるため、膵体部や膵尾部にできた場合に比べると早めに発見される傾向があります。
腹痛・お腹が張る
皮膚や白目が
黄色くなる(黄疸)
腰や背中の痛み
6.日本膵臓学会編:膵癌診療ガイドライン2022年版, p41-42, 金原出版, 2022
7.日本膵臓学会編:患者・市民・医療者をつなぐ膵がん診療ガイドライン2019の解説, p11-12, 金原出版, 2020
膵がんの患者数8,9)
膵がんの患者数は年々増加しています。2000年の調査では男性が10,967人、女性は9,078人でしたが、2019年の調査では男性22,285人、女性21,579人とおよそ2倍となっています。これはすべてのがんのうち男女とも6番目に多く、決して稀(まれ)でないことがわかります。高齢になるほど多く、60歳以上の患者さんが9割を占めています。
膵がん:患者数の推移(全国推計値/全年齢 1975〜2015年)
国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ))より作図
膵がん:年齢階級別 罹患率(2019年)
国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)より作図
8.国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ))(2023年4月現在)
9.国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)(2023年4月現在)
膵がんの原因
なぜ膵がんになるのか、その原因はまだはっきりわかっていません。ただし、膵がんの発症に関係する要因(発症リスク)については、いくつか明らかになっています。
遺伝性膵がん症候群や膵臓に病気がある人では、膵がんの発症リスクが高まります。ご家族に膵がんの患者さんが2人以上いる人も、膵がんになるリスクが高いことが知られています。糖尿病や肥満、喫煙、大量の飲酒などの関係も指摘されています。
膵がんの主な発症リスク
遺伝性膵がん症候群
遺伝性膵炎、遺伝性乳がん卵巣がん、ポイツ・ジェガース症候群、家族性大腸腺腫症、
リンチ症候群、家族性異型多発母斑黒色腫症候群 など
膵疾患・膵画像所見
慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍、膵管拡張、膵のう胞
家族歴
膵がんの家族歴(家族性膵がん)
生活習慣病
糖尿病、肥満
嗜好
喫煙、大量飲酒
その他
胆石・胆のう摘出術、血液型、感染症 など
日本膵臓学会編:膵癌診療ガイドライン2022年版. p38-41,89, 金原出版, 2022 より作成
膵がんと遺伝の関係10-13)
- 親子や兄弟姉妹に2人以上膵がんの患者さんがいる家系に発症する膵がんを「家族性膵がん」といいます10)。家族性膵がんの家系の人では、一般の人より膵がんになるリスクが高いことが知られています。また特定の遺伝子に病的な変異がある「遺伝性膵がん症候群」の人も、膵がんの発症リスクが高まります。遺伝性膵がん症候群の割合は、膵がん全体の約7%と考えられています11)。最近は研究が進み、これらの疾患にかかわる原因遺伝子が特定されるようになってきました10)。
遺伝性膵がん症候群の原因遺伝子10)
PRSS1、BRCA1、BRCA2、STK11、 CDKN2A、hMSH2、hMLH1、APC など
- たとえば、遺伝性膵がん症候群の1つである「遺伝性乳がん卵巣がん」では、BRCA1(ビーアールシーエーワン)、BRCA2(ビーアールシーエーツー)と呼ばれる遺伝子に病的な変異がみられます。BRCA遺伝子は、傷ついたDNAを正常に修復する働きがあるため、BRCA遺伝子の病的な変異があるとDNAの修復が難しくなり、乳がんや卵巣がん、膵がんなどにかかりやすくなると考えられています。
BRCA遺伝子に病的な変異がある人の割合は、遠隔転移のある膵がんの約6%との海外のデータがあります12)。
BRCA遺伝子に変異のある膵がんの割合
*海外での報告をもとに推定しています。日本では年間約4万人が膵がんと診断されています13)
- BRCA遺伝子を含む原因遺伝子の病的な変異は、親から子どもへと50%の確率で受け継がれます。
ただし、病的な変異を受け継いだ場合でも全員が必ずがんになるわけではなく、一生涯がんにならない人もいます。
10.日本膵臓学会編:患者・市民・医療者をつなぐ膵がん診療ガイドライン2019の解説, p13-15,35, 金原出版, 2020
11.Takai E, et al. Ann Sug, 2020
12.Golan T, et al. J Clin Oncol. 2020; 38: 1442-54
13.がんの統計編集委員会編:がんの統計 2023年版, 公益財団法人 がん研究振興財団. 2023年3月
監修:古瀬 純司 先生
地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立がんセンター 総長
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