治療
手術療法
子宮体がんの手術療法は、子宮全摘出術+両側付属器切除術を基本として、骨盤・傍大動脈リンパ節郭清が検討されます。筋層浸潤などがあり、進んでいると推定される場合には、リンパ節の摘出術(郭清)が行われます。
子宮全摘出術1)
子宮を摘出する方法には、3つの術式があります。単純子宮全摘出術、準広汎子宮全摘出術、広汎子宮全摘出術です。
単純子宮全摘出術は3つの中で最も摘出範囲が狭い術式です。子宮と子宮を支える靭帯や組織を摘出しますが、子宮に近いところから切断します。ただし、子宮体がんは卵巣へ転移することも多いため、卵巣と卵管も一緒に取る(両側付属器切除)場合がほとんどです。
準広汎子宮全摘出術は、より広く腟壁(ちつへき)と周囲の組織を切除します。
広汎子宮全摘出術は、もっとも広い範囲を切除する術式です。がんが子宮頸部まで広がっている場合に行われます。骨盤近くからさらに広く周囲の組織を切断するほか、腟壁の一部もより大きく取り去ります。また、ほとんどの場合、骨盤内のリンパ節も摘出します。
1.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん 治療ガイドライン第2版. 金原出版, p81-84, 2016.
リンパ節の摘出(郭清(かくせい))2)
子宮体がんが筋層に浸潤していたり、進んでいる状態が推定される場合には、がんの進行度をより詳しく調べるために、子宮を取り除くだけでなく、がんの周辺にあるリンパ節を切除します。子宮体がんでは骨盤内や腹部大動脈周囲(ふくぶだいどうみゃくしゅうい)のリンパ節を摘出します。がんがあまり広がっていない場合には、リンパ節郭清を省略することもあります。
2.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん 治療ガイドライン第2版. 金原出版, p81-84, 89-90, 2016.
腹腔鏡下手術3)
お腹に5ミリから12ミリの小さな穴を4、5ヵ所あけ、おへそのところから入れた筒(トロカー)からカメラや鉗子(かんし:組織などをはさむ器具)を入れて、モニターを見ながら手術を行います。傷が小さくてすみ、術後の痛みが軽減されるため、早期の社会復帰が期待できます。ただし、通常の開腹手術のように腹腔内全体を直接観察できないため、転移を見逃してしまう可能性もゼロとはいえません。また、適応するのは、早期子宮体がんでリンパ節転移のリスクが低い場合のみです。
3.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん 治療ガイドライン第2版. 金原出版, p86-88, 2016.
手術後の合併症4, 5)
リンパ節郭清を行った人は出血や血栓、肺塞栓症(はいそくせんしょう)、腸閉塞といった合併症、下肢のリンパ浮腫、リンパ管炎、リンパ嚢胞(のうほう)といった後遺症が出ることがあります。下肢のリンパ浮腫は、下腹部、陰部、脚の付け根(内もも)の辺りがむくみやすくなります。むくみはリンパ節切除術を行った場所に近いところ、つまり太ももの付け根から徐々に足の先へと広がっていくことが多いです。リンパ浮腫を予防するには日頃のチェックが大切です。足を観察し、以前より静脈が見えにくくなっていないかチェックしましょう。「指でつまんでもしわがよりにくい」「左右で厚みに違いがある」「靴下や下着の跡が残りやすい」といった変化があれば要注意です。1ヵ月に1度、両脚の太さを計測するのもよいでしょう。
むくみがあれば悪化しないよう皮膚の清潔を保ち、乾燥やケガ、虫刺されを防ぐようにします。体重増加に気をつけ、バランスのよい食生活を心がけることも大切です。アルコールや刺激物の摂り過ぎも禁物です。また、日常生活では衣服や装飾品で体を締め付けないよう注意しましょう。
リンパ浮腫の起こりやすい場所
脚の太さの計測場所
4.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん 治療ガイドライン第2版. 金原出版, p211-214, 2016.
5.国立がん研究センター がん情報サービス「リンパ浮腫 もっと詳しく」(2019年10月15日時点)
術後再発リスクの分類6)
子宮体がんでは、まず手術前の検査で進行期を予測し、実際に手術で摘出した組織を調べます。術後に改めて手術進行期を決め、その後の治療方針を立てます。このとき、評価するのが個々の患者さんの「術後再発リスク」です。再発リスクを決める要因にはいろいろなものがあり、その組み合わせによって「低リスク群」「中リスク群」「高リスク群」に分かれます。
術後、低リスク群の場合には追加治療は必要ありません。しかし、中・高リスク群と診断された場合は、追加治療(補助療法)が必要となります。追加治療としては、薬物療法(化学療法)が主に行われますが、全身状態がよくない方などは放射線治療が選択される場合もあります。
6.日本婦人科腫瘍学会 編. 子宮体がん治療ガイドライン2018年版. 金原出版, p50-51, 2018.
薬物療法
化学療法(抗がん剤による治療)7)
子宮体がんでは、術後、中・高リスク群と診断された場合は、追加治療(補助療法)が必要となります。追加治療としては、化学療法(抗がん剤治療)が主に行われます。これは、再発を抑えるために行うもので、手術でも摘出できなかったような目に見えないがんをやっつけるために行います。
また、がんが広がっていて、手術ができないような場合や再発した場合にも化学療法を行うことがあります。代表的なものとして、がん細胞のDNA合成を阻害してがんの増殖を抑えるプラチナ製剤や、がん細胞の細胞分裂を阻害してがんの増殖を抑えるタキサン系製剤などがあります。いくつかを組み合わせて用いることが多いようです。
7.日本婦人科腫瘍学会 編. 子宮体がん治療ガイドライン2018年版. 金原出版, p50-51, 2018.
免疫チェックポイント阻害薬
免疫は、細菌やウイルス、がん細胞などの異物を攻撃して排除するようさまざまな働きをします。また、働きが過剰になりすぎると、体を傷つけてしまうため、免疫機能にブレーキをかける仕組みも備わっています。
がん細胞はこの仕組みを利用して、免疫機能に対するブレーキをかけることで、免疫細胞の攻撃から逃れていることがあります。
免疫チェックポイント阻害薬は、「免疫機能に対するブレーキ」を解除し、活性化した本来の免疫機能により、がん細胞を攻撃します。
化学療法を行っても効果がなかった方で、ある特徴を持った子宮体がんの場合(高頻度マイクロサテライト不安定性※を有する場合)には、免疫チェックポイント阻害薬が効果があることがあります。
※DNAは、細胞が分裂する際や損傷を受けた際の修復時に、まったく同じものが複製されます。DNA複製時には一定の確率でミスが生じますが、本来これらのミスは修復され、元通りになります。しかし、ミスを修復するしくみが働かず、ミスが積み重なり、異常な細胞が増えてがんになる場合があります。DNAのミスを修復するしくみが働かないようながんでは、DNAのマイクロサテライトと呼ばれる場所で複製ミスが積み重なっていることが知られており、この状態を「高頻度マイクロサテライト不安定性」といいます。
分子標的治療薬
細胞に増殖を命令するスイッチのような分子や血管を新たに作る分子の働きを阻害することで、がんの増殖を抑える治療です。
がん細胞に特徴的な分子を標的として攻撃し、増殖を抑えます。
黄体ホルモン療法8,9)
黄体ホルモン療法は、大量の黄体ホルモンを投与することにより、がん細胞を正常細胞に分化誘導する治療法です。一般に用いられるのは経口黄体ホルモン製剤という内服薬です。おもな副作用に血栓症があり、過去に血栓症になったことがある人、肥満の人、ほかのホルモン剤を服用している人などは、黄体ホルモン療法を行うことができない場合があります。
黄体ホルモン療法(MPA療法)は、妊孕性(にんようせい:妊娠できる機能)を温存する治療法で、妊娠を強く希望する若い(40歳未満)患者さんにおいて、治療の選択肢の1つとなります。
具体的に対象となるのは、がん化することの多い子宮内膜異型増殖症(しきゅうないまくいけいぞうしょくしょう)の患者さん、もしくはごく早期の子宮体がんで妊孕性温存希望のある患者さんです。
8.日本婦人科腫瘍学会 編. 子宮体がん治療ガイドライン2018年版. 金原出版, p166-180, 2018.
9.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん 治療ガイドライン第2版. 金原出版, p111-117, 2016.
薬物療法中の副作用の対応について10,11)
抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常細胞にも作用を及ぼすため、様々な副作用がでやすいことが知られています。また、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬、黄体ホルモン療法も、それぞれ特徴的な副作用が起こることがあります。
副作用の現れ方には個人差がありますので、つらい場合は我慢せず、主治医や看護師、薬剤師に相談してください。また、治療効果を十分得るには、治療を適切に続けることも大切です。治療中の注意点や副作用の対策について、医師や看護師、薬剤師に事前に確認しておくとよいでしょう。
10.国立がん研究センターがん対策情報センター 編. 患者必携 がんになったら手にとるガイド普及新版. 学研メディカル秀潤社, p139-149, 2017.
11.日本臨床腫瘍学会 編. がん免疫療法ガイドライン第2版. 金原出版, p22−24, 2019.
初回治療の経過観察
経過観察の期間と間隔12)
子宮体がんは治療終了してから5年以後にも、再発する可能性のある疾患です。一通り治療を受けた後も、定期的に診察を受けるようにしましょう。経過観察することで、再発や転移、さらに術後の合併症、後遺症を早く見つけられます。
標準的な経過観察の目安
●1~3年目 ⇒ 1~4ヵ月ごとに1回
●4~5年目 ⇒ 6ヵ月ごとに1回
●6年目以降 ⇒ 1年ごとに1回
日本婦人科腫瘍学会 編. 子宮体がん治療ガイドライン2018年版. 金原出版, p132-134, 2018.
経過観察中に行われる検査項目12)
内診、直腸診、腟断端細胞診(ちつだんたんさいぼうしん)、経腟超音波断層法、腫瘍マーカー測定、胸部X線などを組み合わせて行います。再発の可能性が高い場合は、CT、MRI、PET-CTといった画像検査をすることもあります。
子宮体がん治療後の再発・転移を早期に発見するための検査
12.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん 治療ガイドライン第2版. 金原出版, p103-106, 2016.
監修:田畑 務 先生
東京女子医科大学 産婦人科 教授・講座主任
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