腎盂・尿管がんとは
腎盂・尿管とは:「腎盂」と「尿管」はどんな役割をするの?
血液中の老廃物や余分な水分は、腎臓の一部である「腎実質」でとりのぞかれ、尿として排出されます。そのあと、尿は「腎盂」に集まり、「尿管」そして「膀胱」へと流れます。膀胱は下腹部の中央に位置している袋状の臓器で、尿が一時的にたまります。
図 泌尿器
尿が体外へ排出されるまでの通り道を「尿路」といい、尿路の内部は「尿路上皮」という粘膜でおおわれています。
特徴:「腎盂・尿管がん」はどんな病気?
腎盂や尿管に発生するがんを「腎盂・尿管がん(腎盂がん、尿管がん)」といいます。また、上部尿路にできるがんであることから「上部尿路がん」、尿路上皮という粘膜ががん化していることから「尿路上皮がん」ともいわれます。
「尿路上皮がん」には、腎盂・尿管がんのほかに膀胱がんがありますが、腎盂・尿管がんの罹患者はとても少なく、「尿路上皮」にできるがんの約5%ほどで、残りの約95%は「膀胱がん」です。
図 尿路上皮がんの部位別発症率
日本泌尿器科学会 編. 腎盂・尿管癌診療ガイドライン 2014年版.メディカルレビュー社, p10-11, 2014.より作図
一度、「尿路上皮」にがんが発生すると、「尿路上皮」のあるほかのところにもがんができやすいという特徴があります。たとえば、腎盂・尿管がんと同時に膀胱がんがみつかったり、将来的に膀胱にがんができたりする可能性があります。そのため、腎盂・尿管がんがみつかった場合は、膀胱の検査をすることがあります。
がんの型と広がり:「腎盂・尿管がん」にはいくつか種類があるの?
「腎盂・尿管がん」には外見によって「乳頭型」や「結節型」、「平坦型」、「潰瘍型」などの型に分類されます。
図 尿路上皮がんの形態の模式図
日本泌尿器科学会, 日本病理学会 他.泌尿器科・病理・放射線科 腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約
2021年8月第2版. 金原出版, p10-12, 2021.より改変
また、がんの広がり方もさまざまで、粘膜(尿路上皮)で広がっている状態、粘膜の下の筋肉の層(筋層)まで入りこんでいる状態、肺や肝臓、骨などに転移している状態があります。
図 尿路上皮がんの進行の様子
Babaian RJ, et al. Urology 1980; 16: 142-144.
山本新吾. 泌尿器 Care&Cure Uro-Lo 2016; 21: 456-458.より作成
症状:「腎盂・尿管がん」の症状は?
腎盂・尿管がんの一般的な症状には、次のようなものがあります。1, 2)
- 尿に血が混じる (血尿)
尿路内のがんから出血することで起こると考えられている。
- 背中や腰が痛む (腰背部痛)
がんや血の固まりが、尿管(腎臓から膀胱に尿をはこぶ管)をふさいでしまい、たまった尿が腎臓や尿管に圧力をかけるために起こる。
1)井上克己 他. 昭和学士会誌 2016;76:108-115.
2)国立がん研究センター.がん情報サービス, それぞれのがんの解説(腎盂・尿管がん)(2023年3月参照)
原因:「腎盂・尿管がん」の原因は?
腎盂・尿管がんの原因として、いくつかの因子との関連性が知られています。3, 4)
喫煙との関連
喫煙は、もっとも重要な危険因子とされており、喫煙者は非喫煙者と比べ、腎盂尿管がんの発症リスクが約3倍高くなるといわれています。
原因となる化学物質との関連
染料などに用いられる化学物質(芳香族アミン類)や、石油や木炭、アスファルト、タールなどを仕事で扱っている人は、腎盂・尿管がんの発症リスクが高くなるといわれています。
3)McLaughlin JK, et al. Cancer Res 1992; 52: 254-257.
4)日本泌尿器科学会 編. 腎盂・尿管癌診療ガイドライン 2014年版.メディカルレビュー社, p12-14, 2014.
患者数:「腎盂・尿管がん」の患者はどのくらいいる?
腎盂・尿管がんのみの罹患率は明確に示されていませんが、腎盂・尿管がんを含む腎・尿路がんと診断された患者数は2019年では30,458例(男性20,678例、女性9,780例)と報告5)されており、男性は女性より2倍以上多く発症しています。
図 主要ながんの罹患数
国立がん研究センターがん情報サービス 「がん統計」(全国がん登録)(2023年3月参照)より作図
また、2020年の腎・尿路がんによる死亡数は9,712例でした5)。
5)国立がん研究センターがん情報サービス 「がん統計」(全国がん登録)(2023年3月参照)
監修:荒井 陽一 先生
宮城県立がんセンター 総長
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